2024/9/22

「仕事を辞めれば試験に合格できる」は幻想

 司法書士試験の合格者で、勉強開始から合格まで、完全なフルタイムで働きながらの勉強で合格する人は、ごく一部です。大抵は、フルタイムでないか、あるいは最初又は途中で無職での勉強専念の期間があるか、最も多いのは、合格した年は無職での専念でしょう。

 税理士試験は恒久的合格科目免除や、大学院修士による科目免除がありますし、公認会計士も短答式に一度合格すれば、その後2年間も短答式が免除されます。時限的な合格科目免除は、不動産鑑定士、弁理士、中小企業診断士、FP技能士にも認められていますが、司法書士にはこのような免除規定が存在しません。どんなに僅差で落ちようが、何もかも一からやり直しです。そこに、他試験にはない独特の過酷さがあり、合格者の大半が、最初から最後まではフルタイムで働いていない理由があります。だからこそ、フルタイムで働いていて、それなりに健闘している受験生が、「仕事を辞めて専念すれば合格できるのに…」と悩むのも理解できます。

 しかし、私は、仕事を辞めれば試験に合格できる、は幻想だと思っています。司法書士試験は合格率が5%ですし、近年の試験は、「午後の部は実力者でさえ書き切れるかどうかのギリギリの試験」であり、記述の見直しはおろか、択一式のマークミスのチェックさえ、限りなく不可能に近いのです。実際、私も合格した年は記述式の見直しもマークミスのチェックもできず、択一式はマークミスで1問落とし、記述式も後回しにした不登法の登録免許税の計算を1か所やり忘れ、落としました。現在の午後の部の試験は、記述式が現在の半分以下のボリュームしかなかった、平成15年以前の合格者には1ミリも想像できない過酷な世界です。そもそも、仕事を辞めて勉強に専念しても、合格できずに断念する人の方が、ずっと多いのです。そのような試験に、仕事を辞めれば合格できる、と私は口が裂けても言えません。

 私が合格した時は週4日の勤務でしたが、家庭の事情もあり、ほぼフルタイム労働時の勉強時間しか取れなかったと思います。試験直前は、GW以降は週3日、試験直前18日ほどは勉強に専念していましたが、3月上旬からGW頃までの約2か月は、ほぼ休みなしで仕事をしていましたので、結果的に、1年を通して、ほぼフルタイムで働いている時の勉強時間しか取れませんでした。しかし、現実には、本試験で、まあまあ高い点数で、余裕をもって合格できました。

 私は、勉強のために仕事を辞めたことはありませんでしたが、会社都合退職となったのを機に勉強に専念したことは、2度ほどありました。しかし、模試や答練の成績は上がっても、本試験での合格に結びつくことはできませんでした。逆に、勉強専念時の2割程度の勉強時間しか取れなかった年に、まあまあ高い点数で合格することができました。

 勉強に専念しても合格できなかったのは、時間があるので、余計なことに手を出してバランスを崩したことと、過激に勉強して疲労が残り、心身ともに万全ではなかったことも挙げられます。半面、合格した年は、自分の勉強方法と能力に強い自信を持っていたことが大きかったと思います。

 私は、先行き不透明なこのご時世、難関資格の受験のため、仕事を辞めて勉強に専念することはお勧めしません。不動産収入があって実家が太い等(司法試験受験生には結構います)、特殊な事情のない限り、フルタイムで働きながら勉強した方が無難であると、強く思います。