2024/6/6

司法書士試験の合格率が5%になった理由②

 合格率上昇の二つ目の大きな理由が、試験(特に午後の部)の難化だと思います。平成14年までは、試験科目に憲法がありませんでした。また、平成12年から14年まで、試験科目に司法書士法がありませんでした。つまり、平成15以降、いきなり2科目も試験科目を増やしたことになります。

 また、平成16年以降、記述式の論点量・記載量が徐々に増加しました。不登法は、平成15年までは多くても4件で、基本的にはほぼ3件以下だったのに対し、平成25年以降は平成30年を除き、6件以上がデフォルトになりました。平成28年、29年、令和3年が7件、令和5年は8件でした。平成13年の1件、14年の2件と比較すると、3~8倍の差になります。

 また、これは平成15年以前の合格者に話すと驚かれるのですが、商登法は、平成16年以降は、平成18年、19年、25年を除き、2問出題されています。同じ会社で時間を経過して、別の事件があったことにして、2問解かせているのです。この2問形式は、権利義務役員の深い理解を問うという面では有用ですが、受験生の負担が、あまりにも大きすぎます。1問だった平成18年、19年、25年も、平成15年以前よりはボリュームが多いですが、それでも、2問形式は、添付情報を2件分判断させて書かせるため、負担は2問形式の方がずっと重いです。文字通り、現在の試験の記述式は、試験時間は同じなのに、平成15年以前の倍以上のボリュームになっています。

 それでも、記述式のボリュームが増えても、しばらくは受験生が増え続けていたのは、過払いバブルがあったからだと思います。また、法科大学院の開始により、旧司法試験からの転向組が増えたことも、要因でしょう。某塾が、旧司法試験からの転向を積極的に勧めていたことも大きいと思います。

 受験生数増加のピークは、平成23年でした。この年は、平成22年よりも記述式のボリュームが多く、また、過払いバブルも崩壊したことにより、平成24年から、徐々に受験生数が減り始めました。そして、記述式のボリューム増は、平成26年から加速しました。合格率の上昇が平成26年から始まったことからも、この記述式のボリューム増による難化が、合格率の上昇の理由であることがわかります。

 また、私が思うに、記述式のボリュームが増えるにつれて、受験生も減っていったように思います。平成28年は、とうとう不登法の記述式が、7件となりました。某塾のナンバー2の講師が、「試験委員自身が、時間内に記述式をきちんと検討して、択一も解き切るのは無理。」という旨を話していたように、不登法の7件は、もう人間の事務処理能力の限界を超えていると思います。平成29年に初めて合格率が4%を超えたのは、2年続けて不登法が7件となったのも大きいでしょう。

 平成30年は、平成28年、29年の不登法7件がやり過ぎだと思ったのか、5件に減りました。しかし、令和元年、2年の不登法は6件となり、小問も1問増え、2問になりました。どうも試験を易化させると手抜きと思われるようで、5件は平成30年の一度きりでやめたようです。この令和元年、2年の小問が面倒で、結構時間がかかりました。令和3年は、再び不登法が7件になりました。そして、令和元年から3年までは、登記法の択一がかなりの高難度でした。特に私が合格した令和3年は、基準点が過去最低の22問でした。令和4年は、登記法択一の難化がようやく落ち着いたものの、記述式商登法に初めて合同会社が出るという、掟破り、かつ、合同会社以外も高難度の年で、令和5年はとうとう記述式不登法が8件となり、商登法も高難度でした。

 正直、令和の司法書士試験は、トータルで考えて、平成よりも高難度です。令和の司法書士試験の午後の部は、人間の事務処理能力の限界を超えています。私は、記述式が得意でしたが、令和元年、2年と、2年続けて書き切れなくなってしまいました。成績通知を見て思うのが、記述式は書き切れていないと、予想以上に大きな減点となるのです。そこで、令和3年は、もし時間が切迫したら、何とか採点される、ギリギリ限界まで、意図的に汚い字にして、とにかく書き切ると決めていました。そして、実際に商登法は時間が無くなり、減点されないであろう、ギリギリ限界まで汚い字で書き切り、合格しました。現在の試験の午後の部は、「どれだけ汚い字で減点にならないか。」ということも議論されており、もはや国家試験としての体をなしていないと思います。これで多少なりとも合格率を上げなければ、資格試験として成立しないと思います。

 つまり、試験会場の減少による地方の試し受験組の減少だけでなく、午後の部の大幅な難化も、合格率を上昇させる、大きな理由になっていると思います。

 それでも、合格率が5%だから試験が楽になったというのであれば、現行試験を再受験して、合格してみせるべきです。それも、黙って受験するのではなく、「今年司法書士試験を再受験して合格しなければ、講師も含めて司法書士に関する仕事は、再び合格するまではやりません。」そう公言して、再受験するのです。それで一般の受験生と同じ条件です。近年の合格者、受験生を貶めるのであれば、そのぐらいの根性を見せるべきです。そうやって合格した上で、やっぱり合格率5%は楽になったよね、というのであれば、その意見は一聴に値します。でも、そこまではできない、というのであれば、口を慎むべきです。

 私は、厳しい令和の試験に合格したから自分が優秀だとは思っていません。しかし、令和3年度試験の合格に、誇りを持っています。令和の司法書士試験合格者は、是非、誇りを持っていただきたいと思います。