2024/5/31

特別受益の諸論点

 MUFG相続研究所首席研究員の小谷亨一氏の執筆による、KINZAI Financial Planの2024年6月号における、特別受益者の相続分(民法903条)についてという記事が、なかなか興味深いものでした。

 まず、特別受益者の定義ですが、民法903条1項は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分(遺言も考慮した法定相続分)の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定し、同条2項は、「遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。」と規定しています。要約すると、被相続人から便宜を図ってもらっていた相続人は、その分を差し引いて、ほかの相続人との公平を図るようにしますよ、ということになります。

 この特別受益、私がお世話になったベテランの先生も扱ったことがなかったとのことでしたので、受益がよほど高額でなければ、考慮されていないのかもしれません。私も、司法書士会の無料相談で、相続人の一人に特別受益に該当する可能性の高い者があったため、説明したことが一度あるだけです。

 上記掲載に、一般の司法書士でもあまり知られていないと思われる記述もあったので、挙げてみまたいと思います。

①「遺贈」については、判例で遺産分割方法の指定とされる「相続させる」旨の遺言 も、類推適用を受けて特別受益に該当するとの裁判例がある(広島高裁岡山支決17.4.11)。

②「婚姻のための贈与」や「養子縁組のための贈与」は、今日では該当するものはほとんどないと考えられ、看過し難い不均衡を生ずる場合に限られていると考えられている。

③親が子に無償で不動産を貸す使用貸借などの使用利益も経済的利益の提供として肯定されている裁判例もある(名古屋高決平18.3.27)。

④生命保険金請求権など、被相続人の死亡を原因として発生する財産給付に関しては、判例(最決平16.10.29)によると、原則的に特別受益性を否定した上で、民法903条の趣旨に照らし、是認すべき特段の事情がある場合は、同条の類推適用により、持戻しの対象になるとされた例もある。

⑤特別受益は、基本的には共同相続人に対する贈与・遺贈、死因贈与などが対象となるが、過去の裁判例によると、相続人の配偶者や子(間接受益者)などに対するものでも、相続人に対する相続財産の前渡しと同視するのが相当とされる場合は、持戻しの対象とされている場合もある

 ①③は、言われてみればそうなのかな、とは思いますが、④⑤は、特に注意が必要だと思いました。