2024/10/3

真正相続人の相続回復請求権と表見相続人の取得時効の優劣

 「相続回復請求権」という言葉は、一般には耳慣れないかもしれません。遺言は法定相続に優先するため、相続人はいても、それ以外の者に遺贈させる遺言があれば、受遺者が相続人に優先します。この場合の相続人や、次順位の相続人など、相続財産を承継できない、いわゆる表見相続人が、相続財産をわがものにした場合、真正相続人が回復請求することを、相続回復請求権と呼びます。

 この相続回復請求権は、民法884条に「相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様とする。」と消滅時効について定められているのみなので、マイナーな制度ともいえます。

 相続人に優先する包括受遺者がいる上記前段の事案で、包括受遺者の相続回復請求権が消滅時効にかかる前に、相続人が相続財産たる不動産を継続して占有していたことによる取得時効が成立するかが問題となりました。

 近年出た判例は、「民法884条所定の相続回復請求権の消滅時効と同法162条所定の所有権の取得時効とは要件及び効果を異にする別個の制度であって、特別法と一般法の関 係にあるとは解されない。また、民法その他の法令において、相続回復請求の相手方である表見相続人が、上記消滅時効が完成する前に、相続回復請求権を有する真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられる旨を定めた規定は存しない。」

 「民法884条が相続回復請求権について消滅時効を定めた趣旨は、相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させることにある(最大判昭53.12.20)ところ、上記表見相続人が同法162条所定の時効取得の要件を満たしたにもかかわらず、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成していないことにより、当該真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられると解することは、上記の趣旨に整合しないものというべきである。」

 とし、相続回復請求権が消滅時効にかかる前に、相続人が相続財産たる不動産を継続して占有していたことによる取得時効が成立することを認めました(最判令6.3.19)。

 端的に言ってしまうと、真正相続人は、相続回復請求権が消滅時効で消滅する前でも、表見相続人に相続財産を取得時効されると勝てませんよ、ということです。

 表見相続人に相続財産を侵害された場合は、司法書士か弁護士に相談することをお勧めします。