2024/6/6

司法書士試験の合格率が5%になった理由①

 私は予備校の仕事をしていますが、今回は予備校とは関係なく、私個人の意見として書きます。

 私は滅多にネットの掲示板を見ませんが、予備校の仕事をやっているため、リサーチ的に資格関係を見ることがあります(受験生時代は、ほぼ見ませんでした。)。そこで、「現在の司法書士試験は合格率が5%であり、3%時代の合格者が、やりきれないとこぼしている。」旨の書き込みを見つけました。どうも、合格率が3%から5%になったから、試験が楽になったと短絡的に考えている方がいるようです。実はこの合格率の上昇の理由は、深く語られていません。私は超長期合格者であり、また、予備校の仕事も長くやっているので、その観点から考察したいと思います。なお、私が合格した令和3年は、合格率5.1%でしたが、私はまあまあ高い点数で合格したので、仮に合格率が2%でも合格できました。私自身は、合格率上昇の恩恵を受けていないことを付記しておきます。

 合格率上昇の理由は主に2点あって、一般に語られていない点から挙げますと、令和元年まで司法書士試験の試験会場が50か所あったのが、令和2年から15か所に縮小された点があります。令和元年までは、全都道府県に試験会場があり、北海道は3,4か所あったと思います。それを一気に35か所も会場をなくしてしまうとどうなるか。それは、地方在住の試し受験組が、大幅に減ってしまったということです。試験会場のない地方在住者は、会場近くに前泊することになります。宿泊費と日帰りで行けない距離の交通費を払うとなると、ある程度自信のある受験生以外は、受けなくなると思います。例えば、北陸4県は、令和元年までは、各県に試験会場がありましたが、令和2年以降は、北陸には会場がなくなりました。福井の人なら、最も近くて京都ですが、前泊が前提です。新潟の受験生は、東京で受験する人が多いのではないかと思いますが、当然、前泊です。そうなると、基準点を超える自信のある人以外は、まず受験を見送ると思います。東北は仙台だけになりましたし、中国地方は広島のみ、九州は福岡と那覇のみ、四国は高松のみになりました。これらの地域も同様に、前泊しないと受験できなくなった受験生は、基準点を超える自信がなければ、まず受験を見送るでしょう。会場数縮減初年度の令和2年は、元年に比べて、申し込み者数ではなく、実受験の受験生数が2,189人も減りました。令和2年はコロナ騒動の初年度で、民法大改正試験の初年度でもありました。その辺も減少の理由に挙げる方もいますが、行政書士試験の実受験者数は、令和元年から2年にかけて、むしろ1,860人も増えており、コロナも民法改正も無関係に思います。また、令和2年はコロナの影響により、試験が例年より3か月弱遅れました。その分、民法改正に対応する勉強の期間も伸びました。少なくとも択一式が基準点に達する自信のある受験生は、コロナだろうが、民法改正だろうが、受験を見送っていないと思います。

 つまり、減少した受験生の殆どは、酷な言い方をすれば、合格がほぼ不可能な地方の試し受験組であることが推測されます。そうすると、令和2年以降は、令和元年以前より、実受験者の母集団のレベルが高いことになります。裏を返せば、令和元年以前は、令和2年以降には存在しない、合格がほぼ不可能な地方の試し受験組が2,200人近くも存在することになります。失礼な表現で恐縮ですが、この人たちが母集団の質を希釈し、「合格率3%台」という、低い合格率を作り出すことに、寄与してくれていたのです。この人たちがいなくなっても、合格率を同じままにする方が、不平等だと思います。合格率は平成26年から年に0.2~0.3ずつ、徐々に上昇しましたが、令和元年の4.4%から令和2年の5.2%への0.8%の上昇が、最も高い上昇でした。このことからも、この試験会場数激減による地方の試し受験組の不受験が、合格率上昇の大きな要因であることがわかります。

 したがって、試験会場の大幅な減少は、合格率を上げる、大きな理由になると思います。